溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「くそ、離せっ!」
ウェイターが力任せに腕を振る。
爪を立てていた手のひらに少しの隙間ができ、銃が床に転がった。
私は咄嗟に体を離し、その銃を遠くに蹴り飛ばす。
すると背後から、ウェイターが飛びかかってきた。
手には近くのテーブルにあったのであろうナイフを持っている。
背後から私を捕まえ、人質にでもしようというのか。そうはいかない。
俊敏に身を翻すと、相手は驚いたような顔をした。
そのすきをつき、ナイフを持っている右手をとろうと手を伸ばす。
しかし、相手はテロリスト。
左手で私の腕を払いのけると、右手を突き出してくる。
私はそれを両手で受け止め、膝蹴りを繰り出した。
しかし相手はそれを見破ったのか、腕を払いのけ、跳ぶようにして後方に下がる。
態勢を整えられる前に、動きを止めなければ!
追いかけるようにして、その足元に足払いをかけようとした瞬間。
軸にしていた足の踵が、ぐらりと揺らいだ。
細いヒールが、ぼきりと音を立てて折れたのだ。
あっと思った刹那、軸足のくるぶしが曲がっちゃいけない方向に曲がったような気がした。