溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
転倒するのはなんとかこらえたけど、私が態勢を整えるより先に、相手がこちらに一歩踏み出す。
それと同時、周囲で2,3発銃声が聞こえた。
どこに集中すれば良いのか、迷った刹那。
「一ノ瀬!」
矢作さんの声がした。
それが聞こえたときにはもう、私の身体は衝撃とともに吹っ飛ばされていた。
──ガシャァァァン!
大きな音がして、テーブルが崩れ、食器が床に散乱する。
気がつけば、私の身体はテーブルクロスの上に横たわっていた。
口の中で血の味がする。頬が割れたように痛い。
……でも、立たなきゃ。ここでこの人たちを逃がしたら、またマルタイが危険に陥る。
そう思って体を起こそうとすると、ずきりと足首が痛んだ。
しかも、頭がふらふらしてお腹にも力が入らない。
ぼんやりとかすみ始めた目で見上げると、いつの間にか私の前には3人の男がいた。
やっぱり、仲間が……。
サイドのスーツをきた二人が私に銃口を向け、真ん中にいたウェイターがナイフを持ったまま、私を見下ろしていた。
右側の男の指が、引き金にかかる。
撃たれるのだなとわかっても、体が動かない。
「紫苑!」
自分の名前を呼ぶ、強い声。
ハッと目を見開くと、私の前にまた見覚えのある背中が飛び出した。