あなたとキスをするまで





恋とは恐ろしい。魔法がかかったみたいに人を麻痺させる。


ワタシはわがままな人なんて嫌いだし大嫌いだし、自分のことしか考えてないやつの頭の中なんてカニ味噌だと思ってるし、ナルシストが一番嫌いだ。アレは人種じゃない。





「…イチコ、あれ…」

「キィーーーーッ!!!知らないよぉ!!!聞いてないよぉ!!!」



本日、美代さんが指すのは女先輩の集団にいちゃこらされているむくろ君の姿である。


只今、部活勧誘週間で1年生は必ず一度はどこかに体験入部しなければならない。なのでワタシたちはむくろ君の体入を見守っているというわけです。



ワタシは発狂する。女子テニスと男子テニスって別々だったと思うんですけどおおおおおお!!!

なんでなんで!女テニの先輩が男テニのコートにいるの!!!!!!!


聞いてないよぉおおおおお!!!



そして今、むくろ君のジャージ姿を撮影しようと試みるも…邪魔がいてなかなか撮れない。




「イチコー、美夜バスケ部が見たーい」

「ダメ!今日はむくろ君の体入だから!むくろ君の身体を観察するのよ!!」



むくろ君は全くテニスには興味が無いらしいが……多分女テニに可愛い子がいるからそこに体入したんだと思う。うん。



「美夜さん、ワタシって…世間一般的にどんな感じ?」

「変態」

「即答どうもありがとう。」



女先輩に囲まれるむくろ君は王子さまスマイルをしている。作り笑顔だろうけど様になっててとてもカッコいいよ、薄い本が何冊も出来ちゃうよコレ。


爽やかだなぁオイ。


「イチコ?ほら今撮れるよ?」

「あー、うん。大丈夫。」



チクッと胸が痛む。ワタシの前だとあんな風にむくろ君が笑顔を見せることはない。見せてくれるのは形の整った眉を眉間に寄せてる表情くらいだ。

あ、でも…眠そうな朝一の表情とか寝起きの不機嫌な表情も見たことあるか!!それにそれに!あ、今度寝顔を見てみよう!!!よし!そうしよう!!


「…イチコ?」

「ぐへへへへへへへ」



パシャ。


「え!?何撮ってんの!?」


「あんた自分の顔見てみな」


美夜さんが撮ったであろう写メを見てみると…。



「…………次からモザイクかけますね」


「そうしろ」



これ多分、視聴者には見せられないよ(はあと)レベルを余裕で超えてる。自分でもゾッとしたわ、このアヘ顔相当だわ。


「…吐きそう」

「あくまで自分の顔だからな」


………うん。気付けて良かったよ。
ワタシそんな顔してたんだね。


美夜さん感謝するよ。




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