未知の世界2

私は先生の怒鳴り声には慣れているつもりだったけど、走ってはいけないことをすっかり忘れていて、先生の声に驚き、前のめりになって転んでしまった。



慌てて先生とお父さんが駆け寄ってきた。



「かなちゃん、大丈夫?」



と私の膝を持ち上げた。



私は自分が転んだ失態よりも、先生がこんな公衆の場で大声を出すもんだから、そのことが恥ずかしくて、つい、



「先生、声大きいよ!恥ずかしい!」



といい口を尖らせた。



入院していた時によく怒鳴られていたけど、その時は、こんな口答えはできなかった。



けど、最近、先生との生活に慣れ、大抵のことは話せるようになってたから、つい本音が出てしまった。



するとお母さんが、



「そうよ、走ってすぐに喘息が出るわけじゃないんだし、幸治は心配しすぎなのよ~。」



と言って、私に近寄ってくれた。




「旅先で喘息になったりしたら大変だろ?それに、何回注意してもすぐに走り出すんだから、しょうがないだろ。」



と先生がいうと、お父さんも



「まぁ、幸治の気持ちもわからんでもないがな。



かなちゃんのことが大好きな幸治は、今も昔も変わってないなぁ。」



というと、



「うるさいっ!」



と先生は否定しなかった。



それが嬉しくって、先生に怒鳴られたことはどうでも良くなって、私は、



「ごめんなさい。」



と素直になれた。



先生は私が旅先で怪我をしてもいいようにと、コンパクトな救急セットをもってきてくれていた。



その救急セットで、私は先生に消毒してもらった。



「小学生じゃないんだから。」




と小言を言いながらも、最後に、は気をつけろよ、と優しい言葉をかけてくれた。




そのあと、私はお店の中の動物の置物を全てみて回った。




私があんまり見ているもんだから、お父さんが、私に一つ可愛い動物の置物を買ってくれた。




私は、お父さんに初めて買ってもらったことが嬉しくって、涙がでた。




こんなことが当たり前になる時がいつか来るのかもしれないけど、今は、お父さんとお母さん、そして先生にしてもらうこと一つ一つが家族の温もりに感じられて嬉しかった。




一年前まで、こんな日が来るなんて、私は想像していなかった。




泣いている私をみて、心配な顔をするお父さんに、私は思わず、



「ありがとうっ!」



って言って、抱きついていた。




お父さんも嬉しかったみたいで、目に涙を浮かばせていた。




そして私達は旅館に帰る途中に足湯に入り、旅館へ戻った。
< 45 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop