未知の世界2

翌日にはお父さんとお母さんは、今も残してある自宅をみに行った。



その自宅のご近所さんたちにお土産を配るついでにと言っていた。





私はまた今日から学校。





後少しでお父さんたちとはまたお別れ。





こんなに寂しくなるなんて思わなかった。





学校を終えて帰ると、お父さん、お母さんがキッチンで何やら格闘していた。





「どうしたの?」





と聞くと、ご近所さんから魚をもらってきたみたい。





どうやってさばいたらいいのか分からないとお母さんが言ったので、私が代わった。




私は施設で何度も料理をしてきたので、魚もなんとかさばける。





たくさんあるから、刺身や煮魚にした。






フライ用にとさばいておいた。





本当によく切れる包丁で、スムーズにさばけた。





私がさばいている間、お父さんとお母さんはじっとそばで見ていた。





見られると、やりにくい。





8時ごろになり、先生が帰宅してご飯を食べた。





するとお父さんが、





「幸治がかなちゃんに医者をすすめる理由がわかったよ。」






と言うと、先生が、






「何かあった?」





と聞く。






「あんなに上手に魚をさばけるなんて。すごかったわ。」






とお母さんが答える。





「これ、全部かなが?




俺は魚をさばいてる様子は見たことないけど、料理してる時の包丁さばきは医者になれば、普通の人より得だと思った。」






なんで?さばいただけなのに。
 




「どうして?」






という疑問に、お父さんが、






「基本的に医者は器用な方がいいんだ。オペといって手術のとき、細かな作業が必要となる。




怪我をした患者さんの縫合にも手先が器用でなければならない。





皆、縫合だって最初はできないから、お肉を使って練習するくらいだよ。」






「ましてや小児科は、子供の臓器が大人より小さいから、どれだけ器用であるかが重要なんだ。」 





と先生が付け足した。するとお母さんが、





「それに看護師になる子でも、血を怖がる子が多いから、途中で辞めてしまう子もいるの。」





と言う。





そんなことを言われたら、私、医者になるしかないじゃん。






「それをプレッシャーに感じなくてもいいんだからね。






かなちゃんの将来はかなちゃんの好きなようにしなさい。





学費は全て私が出すからね。」





というお父さんに、先生が、





「いや、俺が出すから。」





というが、    





「何言ってるんだ、かなちゃんは私たちの子供なんだから。




それに、アメリカでは日本の倍の給料をもらってる。





アメリカから日本に戻る前にお金を使っておきたいしな。                                   


心配しなくていいからね。」






と私にいう。






「ありがとうございます。」





と、改めて丁寧にお礼を言って頭を下げた。







  

「幸治は、かなちゃんをずっと面倒みてやってくれ。





俺達はアメリカにいるから、お金を送ることしかできない。




そばにいて、ずっと支えてあげなさい。」




と言う。





そんなんじゃ、先生のお荷物になっちゃうよ。






「それはっ、ダメです。






だって、先生はいずれ誰かと結婚して、家族を持つんだから。        




私は早く働いて、この家を出ます。」






と言うと、すぐに先生から、





「だから、それは前にも言っただろ?







俺は生涯、医者でいたいから、結婚はしないって。




ずっと、ここにいろ。」





と強くいう。





今だけだよ、そんなの。





するとお母さんが





「まぁ、素敵。






いっそのこと、二人が家族になっちゃえば、、、」






といい、口に手を当て、それ以上何も言わなかった。






お父さんを見ると、ニヤニヤしている。





私は意味がわからず、






「もう家族だと思ってました。」





と言うけど、お母さんにそういう意味じゃないの~と言われた。  





するとお父さんが、   





「でも、かなちゃんはいつも幸治のことを先生って呼ぶけど、ずっと先生って呼ぶのか?




その、家族になっても。」






だから家族なのに!






今度はお母さんがニヤニヤしている。






もう、夫婦そろってひどいよ。






「先生以外になんて呼べば、、、





お兄ちゃん?」





と私が言って先生を見ると、まさか、まさか、

     
  



先生、顔が真っ赤。





「お兄ちゃんなんて、恥ずかし、、、」






と先生が言う。




「あら、昔は平気だったのに。」





とお母さん。




どう呼んだらいいのかな。





「幸治さんっ!」




と思いついたように私がいう。




「それも素敵ね。将来的にも。」




なんて、お母さんが言うけど、さっきからお母さんの言う意味がよく分からない。





そして私はこれから、先生のことを幸治さんと呼ぶようになった。




たまに先生と言っちゃうけど。




それからお父さんとお母さんは数日してアメリカへ帰って行った。




結局、私はお父さんたちと話をしていても、昔の記憶は特に思い出せなかった。






だけど、お父さん、お母さん、そして幸治さんの温もりは以前にも感じたことのあるものだった。




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