青蒼の夜半に、闇色の鳥を
 インシアが痛む己の腕を、指先でなぞる。

 それを見咎めてラザーが囁く。

「すみませんでした。

 ……王は、もっとあなたに優しく触れたのでしょうね」

 唐突な言葉に、インシアの整えられた眉が片方、吊り上がる。

 ラザーは、薄い唇を動かし続ける。

「あなたの夫であった男は、どんな風にあなたを抱いたのでしょうか?

 本当はいつでも、考えていた。

 あなたと、あなたの夫のことを」

「……なにを云い出す?」

 インシアは細い腕をゆっくりと組み、斜めにラザーを見遣った。

 ラザーの笑みのかたちは、崩れないまま。
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