青蒼の夜半に、闇色の鳥を
 どこまで問い掛けても欲しい答えは受け取れない。

 同時に、なにを問われても応じられないのは、ウルジャスも一緒だった。

 聖堂の侵入者である、遊牧民の少女。

 彼女のことを話す気にはなれない。

 一言でも漏らせば、いくらウルジャスが止めたとしてもラザーは彼女を捕えるだろう。

 典礼を盾に、逃がしはしない。

 いくらウルジャスが希んでも。

 子供の頃、ウルジャスは小さな犬を拾った。

 泥だらけ傷だらけの汚れた仔犬。

 侍女や教育係に見付かったらすぐに処分されるであろうそれを、兄は一緒に世話してくれた。

 ひとの来ない下番小屋に隠し、死ぬまで見取ってくれた。

 あのときの兄ならばもしかしたら、シェイスを救ってくれたかもしれない。

 ――でも、いまの兄は違う。
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