青蒼の夜半に、闇色の鳥を
「あの女?

 あんたのご母堂のこと?

 一度だけ。

 ひとつだけ、聞いたことがあるわ」

 短い服の裾を払い、シェイスが立ち上がる。

 夢の残滓を払おうとするように、首を振る。

 褐色の傷だらけの膝が剥き出しになる。

 厚く化粧をし香油の香りを纏う女たちにはない、生きていく強さとしなやかさの証。

「ひとつ?」

「ええ。

 灰色の髪と眸の、アッバース巫女。

 自分の妻は『聖女』だってね」

 見上げるウルジャスに、シェイスはにっこりと、うそ臭いほど鮮やかに微笑んだ。
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