青蒼の夜半に、闇色の鳥を
「……なにが聖女だよ」

 ――自分の子を殺そうとする聖女など、いるもんか。

 鈍い憤りがウルジャスの目を塞ぐ。

 シェイスが僅かに、眸を眇めた。

「母親のこと、嫌い?」

「嫌い、と云うよりも、知らない生き物だ」

「そう?

 あたしにはアッバース女神自体、わかったものじゃないけどね。

 あたしたちの神様は大地で、一番大切なものは一族だけ」

 彼女が語る彼女の根幹の部分は明快で、歪みがない。

 うらやましいほどの清々しさはその身に流れる血からねじれたウルジャスには遠く、眩しいばかりに思えた。
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