青蒼の夜半に、闇色の鳥を
「それって好いな」

「普通のことよ」

 片手を壁に付き、ゆっくりと聖堂のなかを歩きながらシェイスが云う。

 艶めいた黒髪が、彼女の動きに従いゆらゆら揺れる。

「普通か」

 父は、見知らぬひとのままで死んだ。

 母は、厭うとも厭わぬとも語らぬまま、ウルジャスの命を狙った。

 兄は、肉親であることを捨て、ウルジャスを勝手に主人と定めた。

 ――誰も彼も、ウルジャスを血肉を分けた家族と思ってはいない。
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