【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
「俺ね……失感情症なの。笑里と同じ。感情が無いんだ。まぁ、俺の場合一部だけなんだけどね」


失感情症……文字通り、感情を失う病気、という事?この、良く笑い、良く泣く、幼げな表情の男の子が、私と同じ?


成がこんな事を嘘で言うとは思えない。けれど、私と別世界の頂点でずっと歯車を零さぬよう動いていた成に、無い感情なんて、ある訳が無い。


「笑里の場合、全ての感情を重たい蓋の下に隠している状態でしょう?俺はそれとは根本的に違うかな。俺は、抑え込まれてしまったって言った方が良いのかなぁ。その感情を」


「それは……ど、の?」


あまりの事実に、言葉が出ない。嬉しいしかまだ表現出来ない私は、それこそロボットのように唇を、音を出す為だけに動かした。喉も唇も酷く渇いていた。


成は悲しそうな、それでいて甘やかな微笑みを携えている。縦に伸びる笑窪は、泣いているみたい。


「俺が持ってないのは『怒り』だよ。多分、取り戻すのには時間が要ると思う。今朝のあれは、あまりに俺の中の世界では無いもの過ぎて心が停止しちゃって。いつもの成ちゃんじゃなくて驚かしたよね。ごめん」


成が持ってない感情。そういえば、成が怒っている姿は見た事が無い。それは寛容だからだとばかり思っていたけれど、実はそうじゃなく、彼は『怒る術』を持っていないのだ。
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