【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
成から灯される彩り鮮やかな何かが、途端にどこか欠落しているように見えた。


彼は、私と同じ、失った人。


……最も、私のように自分から捨て失せた振りをして隠し持っていたというより、誰かに押さえ込まれ奪われたというのが正しいようだが。


「笑里が事件の真実と感情を取り戻す為なら、俺の秘密全部話すけど、今は止めとく?」


「す、すみません……後日、ゆとりがある時にでも」


私の抜けてしまった空白の部分……事件を起こす前の断片的な部分と、起こした後から父に引き取られるまでの数カ月。


おそらく、成は後者に関わっているだろう。感情を失っているという共通点を持つ私と成は、一体どこで繋がりを持ったのだろう。


「それにね、思うに、笑里は取り戻し始めてるんだと思うから、取り戻してからの方が良いと思うんだよ、話すの」


成の投げかける言葉には、主語が無い事が多い。それは、意図して私に主語を言わせたいからな気がしてならない。


「それは、成が失っている感情をと、言う事ですか?」


「うん、そう。倒れる前に燭と話してたよね?あの時の笑里の顔は間違いなく『怒っていた』から。だから、ルイが燭を事情聴取中」


成は静かに笑った。鮮やかに空気中に色を灯しながら。だけど、その色は鮮やかなのに悲しい色に写った。
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