【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
その一連の動きで、美樹がわざと煽って里佳子の気持ちを読んだ事を察する。


美樹はこの手のやり口を訓練したかのようにこなしている。


もしかしたら、父のラボを出て教師になるまでの空白の一年に、美樹は何らかの訓練を受けているのかも知れない。


「状況はそんなとこか。とにかくお前達は影響力が強い。このちっぽけな社会の人間にとってはな。不本意かも知れないけど、それだけは頭の隅に置いておいた方がいい」


こんなに無気力な、教師として最低な男なのに言葉の一つ一つはやけに正確で、それでいて重たい。


「それじゃあ先生、俺達はどうすれば良いんでしょうか?」


この状況下、一番戸惑っている燭が疑問を投げかけた。立場が変わり過ぎた事は彼にとっては困惑でしか無いからだろう。


美樹は二本目も吸い終わり空き缶へと処分すると、里佳子の買ってきたコンビニの袋から目当ての缶のブラックコーヒーを取り出し、プルタブを片手で器用に空ける。


「どうしなくても良い。特に、お前や笑里、ルイはな。成と里佳子はそのままあそこを無意識に牛耳り、お前達はノータッチ。そうでないともっと崩れるだろう?」


「それもそうですね……」


じゃあ、どうしてこの話をわざわざ誰にも聞かれない場所でしたのか。その疑問をわざわざ持たせるように仕向けていると分かる。何て策士なんだ。
< 166 / 369 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop