【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
「幼馴染みだけど、ただの幼馴染みじゃなくて、家族のような、身体の一部のような、そういう大切な存在だったんだ。お互い以外に自分を知られてない自信があるくらいにね」


言葉の切れ目にほうじ茶を飲む彼の姿は溜め込んだ言葉達を喉を鳴らして飲み込んでは吐き出すようだ。


実際飲み込んでいるのはほうじ茶だが、あのペットボトルが言葉を溜め込んだペットボトルだと思ってしまったからそう見えるのだろうか。


「流鏑馬の為の稽古の時以外はずっと一緒にいたし、中学時代はあんな事をしてしまうまで、頻繁に手なんか繋いでたっけ。……何だか、つい最近の事のような、ずっと昔の事のような、不思議な気持ちだ」


ペットボトルを一旦テーブルに置いた燭は眼鏡を外し、指紋が気になったのか、持ち歩いていたらしい眼鏡拭きでレンズを磨く。


多くはないが長く艶やかな睫毛が、短髪にした黒髪と共に蛍光灯の光を吸って、その艶やかさを上げている。


「なぁ燭、やっぱり昔話なんか止めろよ。コイツらには関係ねーし、アタシらの過去なんか不和とか、そういうのの原因になるとも思わないから建築的じゃねーよ」


ゆっくりと流れる静かな時間に、里佳子の不安が滲む声が響く。それもやけに大きく。
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