【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
吹き込む風は冷たくて、味に例えるのならそう……少しだけしょっぱい、そんな秋の風が吹き込む季節。
ざわざわとクラスメイト達が話す声に蓋をするように、イヤホンを耳に挿して今日も私は意味の無い言葉の羅列で作られた爆音の世界に身を置く。
「……!った、おか!」
そして、私の日常に入り込む異物にその世界をかき消されるのもまた、朝の恒例行事で。
「嶋山君、何ですか?」
「おー、今日も絶賛クールだなぁ片岡は。そんなジャカジャカ爆音聴いてたら、鼓膜やぶけちゃうよ?」
無口で無表情な私に凝りもせず毎日毎日声をかける彼は、クラスメイトで学年のリーダー格の男の子の、嶋山成(しまやまなる)だ。
「それで、要件は何ですか?」
「いや、今日転校生が来るらしいの!噂だと美少年らしいんだけどさぁ」
彼はこれから仲間になるらしいその転校生とやらに期待を膨らませ、宝石のような輝いた瞳を更にキラキラとさせている。
私の瞳が嶋山成と同じ成分だなんて信じられない。私のそれは、あの日全てを捨てようと決めた日に汚濁してしまったというのに。