【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
「自分の手こんなにするんなら、アタシの手に爪立てな」


里佳子は目と眉毛を吊り上げて、本当に怒っているように私に静かに唸った。


「そんな……出来ません」


「じゃあすんな。何も傷付けんな」


何て優しい人。でも、里佳子はこれを全ての人にするわけじゃなく、大切にしている人にする事を知っているから、嬉しさが溢れる。


「何ニヤニヤしてんだよ!アタシ怒ってるんだぞ?」


「ええ、でも、里佳子は関心の無い人にこんな風に怒ったりしないでしょう?だから、嬉しいのです」


これまでは出来なかったから、ありったけの感情を素直に伝えたい。だから、里佳子に私も正直にぶつかろう。


その言葉を告げて数秒、里佳子は石のように固まっていたが、徐々に頬にニット帽と同じ色を灯す。


「何だよー!糞かわ!腹立つ!」


「痛い。里佳子、骨が当たります」


急に強く抱き締めてきた里佳子の腰骨か当たってそれを拒否するものの、ほかほかに温まった里佳子は温かくて、骨っぽいのにその手のように妙に柔らかい生き物だと思った。
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