【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
「何……泥棒!」


白い箱の中から、さっきの人当たりの良い声と同じ声だとは思えないヒステリックな声がキンキンと鳴り響く。


その刹那、ルイが白い箱の中からこちらへと降り立った。背中に、成を背負って。


「とりあえずここら一番近い私のうちに逃げましょう。ルイは成をそのまま連れてタクシーで。私達はバスで。それで構いませんね?」


自分でも驚く程の的確な指示がポンポンと口から飛び出す。混乱している時程、私の脳は正常に機能するものらしい。


全員で目配せし合って二手に分かれ、一刻も早く、と各々が足を精一杯回しこの白い箱から遠ざかる私達。


嫌な耳鳴りが止まらない。あのヒステリックな不協和音が、夜に嫌な音楽わ流し込む。


どうしよう、どうすれば、どうしたら……ぐるぐる、不協和音が止まらない。


「大丈夫、アイツは、成は頑丈だ。じゃなきゃただのバカヤローだろ」


泣きながら走る里佳子に手を引かれ、悲しい色に染まった夜の闇へ身を投げるように、足を縺れさせながら走った。


夜空の悲しい色が、成を染める傷跡みたいで無性に腹が立つ。そして、怒りと同時にこみ上がるこれは、一体何なのだろう。
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