【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
そのようなやり取りの中、楠本燭だけが黙々と作業をこなしている。


長い黒髪の前髪と太い黒縁の眼鏡の奥の目は、他のメンバーに向く事なく、自分に課せられたノルマをただ見つめるのみ。


こうして見ると、楠本燭も見た目は悪くない。それどころか、かなり端正なようにも思える。繊細そうな指先と、大人しい性格に反してがっしりとした肩幅。睫毛は多くないものの長く、涼しげながら堀の深い顔の造形をしている。


思慮深さが窺えるツンと上がった鼻と、寡黙な性格が彼を同級生の輪から離す要因なのかもしれない。


「俺、自分のノルマ終わったよ。悪いけど稽古があるし帰っていいかな?」


ピシャリとホチキス止めの終わった修学旅行のしおりを並べた楠本燭は、物音を殆ど立てること無くすっと立ち上がる。


その背筋はしゃんとしていて、製造者の父そっくりに猫背なルイと並ぶと、姿勢の良さは歴然としている。


「え、もうちょい手伝っていけないー?」


「ごめん。手伝いたいのは山々だけど本番が近くて出来る事はやっておきたいんだ」


寡黙な楠本燭が習い事、しかも稽古だとか本番だとか言っている辺り大人しく黙々とやるものではないだろうと予測できる事をやっているという事実に、失礼ながら意外だと思ってしまう。
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