【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
「エミリ、そんな顔をしないで。悲しみが分からないキミのままなのに、泣いているみたい。キミの涙をそれこそボクが奪っているみたい」


私は今、どんな顔をしているのだろう。悲しみがまだ、胸の奥に灯らない今、自分の状態を言い表せない。


「大丈夫だから。傍にいるよ。ボクは、ずっとキミの傍に」


懐かしい言葉だと思った。私にずっと寄り添って来たその温かい言葉。夢だけじゃない。今ここにいる私という存在が、記憶が、彼をそうだと確信しきっている。


「ルイは、ずっと傍にいてくれましたね。……昔から、ずっと。やっぱり、君は」


「もう、良い。言わなくても良い。キミが気付いてくれていると気付けただけで、これ以上の幸福は無いから」


その言葉が確固たる証拠だ。私の中だけの確信は、確実になって行く。


ルイはずっと傍にいた。どういう経緯を持って今の姿に変わったかは、多分父のする事だから難しくて理解出来ないけれど、ルイは、あの古びたロボットなのだ。


夢の中、あの私の記憶の断片の全てにいた君は、嬉しい時も、悲しい時も、孤独でも、痛くて辛い時も、私の側にいてくれた存在。


「キミの幸福が、ボクの幸福だよ、エミリ」


落ちる宝物。ひと雫、ふた雫、ルイの生きて来た軌道に、そっと光を灯すように。
< 279 / 369 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop