【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
スクールバッグを持ち上げて背中を向けた楠本燭に、ルイはすらりと長い腕を伸ばした。


「う、わ!……どうしたの、ルイ」


急に後ろから手首を掴まれて引っ張られた楠本燭は、よろけて慌てて振り返る。


けれど、ルイはその言葉には返事をしないでじっと楠本燭の顔を見ているよう。


多分、何か分析しているのだ。稼動初日、うちで瞼を開いた時に鳴っていたカメラの起動音のような小さな甲高い音は、父親によって改良されて意識しないと聞き取れない程になっているが、私は一度聞いた事があるせいか聞き取れてしまう。


おそらく、楠本燭の瞳と脈の動きを取って分析しているのだろう。ルイには無くて、人間にはある何かを。


「ふーん。そういう事」


ルイは満足行くまで観察すると、ぱっと手を離して楠本燭へ向けてにっこり微笑んだ。


いつから笑う事を覚えたのだろうか。そのあまりに自然な表情の使い方に、感心すらしてしまう。


「何かその言い方引っかかるなぁ……ま、いいや。とりあえず、また明日に」


「うん、稽古頑張って」


疑問を残しながらも、時間を気にして急いで教室を出て行った楠本燭の背中に、ルイはいつも通りの表情の無い綺麗な顔で手を振った。
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