【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜



成の別荘は、案外古風な古民家で、想像していた別荘の概念とはかけ離れた代物だった。


「別荘ったって、ひいじいちゃんとひいばあちゃんが余生を過ごしたうちをリフォームしたとこなんだ。一応風呂とトイレはあるみたいだけど、寝んのは皆同じ部屋だなー」


その小さな別荘に、まるで初めて来るかのような成の言葉に眉を潜めると、成は困ったように微笑む。


「あの人が俺と旅行して、ましてや同じ部屋で寝るわけ無いだろ?父も兄も気は遣ってくれたけど、一緒に来たことは無かったんだ」


聞かずとも考えれば結論なんか簡単に浮かんだ筈なのに、私はまた成に苦しい事を言わせてしまった。


いたたまれなくて俯くと、がし、と後頭部を掴まれわしゃわしゃと乱暴に撫で回される。


「一々重いんだよお前ら!そんな事情どうでもいーべや!成の初めての別荘遠征が寧ろアタシらで幸せなんじゃね?」


「あはは、その通りだ。家族で来たって苦しいだけなのが、こんなに楽しい」


里佳子のまっすぐな言葉は、皆を前に向かせる事が出来る。


短所である以上に長所である里佳子のまっすぐさに、何度救われただろう。


私の過去に、成の過去に、そして自分と燭との過去にいつだって背中を向けずに涙を流した里佳子。ルイの事だってそう。


彼女がいなければ、大切な人との時間を喜べる事はこの先無かった。彼女がいたから私は絶望とも向き合える。
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