【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
「お父さんから聞いた。エミリがまだ赤ん坊の頃にね、エミリの夜泣きに耐えかねて、口を抑えて窒素させようとした事があったんだって」


「じゃあ、何で離婚した時にオトンが引き取らなかったんだよ!」


穏やかに語るルイに、里佳子はイライラしながら声を荒らげる。でも、考えれば真実へ、容易く触れられる。


「それは未遂で終わったのでしょう?父が止めたから。そしておそらく、親権争いに証拠が無くて話題に出せず負けた。父が家庭を放り投げて仕事をしているのは負けの材料になりますからね。間違っていますか?」


「いや、概ねその通りだよ。お父さんはその事に今でも胸を痛めてる。ボクにカメラを付けてもそれは犯罪だから、おおっぴらに騒げなかった事も」


パンドラの箱を少し開き、真実が漏れ出す。やはりそれは残酷だけれど、同時に、気付けなかった父の優しさに触れる事の出来る、大切な真実。


「……でも、事件が起きた時に最初にあの場からキミを救えたのはお父さんだった。ボクに機能を付けていたからね。新幹線で一時間半、ローカル線で一時間弱。二時間であの場へ辿りつけた」


もし父が母の猟奇的な部分に目を瞑り、ルイを造り出していなければ、私も母から負った傷で手遅れになっていたかもしれない。


独りじゃなかった。あの頃から。なのに、当時の私は忘れる事で大切な事実まで消し去っていた。
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