【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
目を瞑り、遡る。優しかった母の笑顔は嘘ではない。


しかし、それは残酷な真実の一部。母は、第三者がいる時はあの優しかった笑顔だった事を思い出す。


「母の暴行は家の中では毎日でした。母は、父が贈った小さなロボットに父に監視されていると怯えていたのでしょう、本能的に。彼を壊そうとしていた。けれど、幼い私はそれを守り通して代わりに受け続けていたのです」


傍にいるよ、といつでも囁いた小さな身体を私はいつでも抱き締めて、声を殺しながら誰かが助けてくれると信じ、叫び続けていた。


けれど、母は見えるところには傷は負わせなかった。第三者には、子供ながらに叫べなかった。叫んでは行けない、誰も助けてはくれない、私の傍にはもう、小さなロボットしかいないと思っていた。


「私は徐々に、喜ぶ事も、怒る事も、未来を楽しみにする気持ちもどこかに押し込めるようになりました。ただ、悲しいと泣く事だけは手放さずに」


なのに、それも手放した。母を殺した日、解放される等価交換に、それすら差し出した。


必死にその時を思い出そうとしても、未だに断片的で、空白が過ぎるのみ。
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