【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
思えばまともな食事を摂っていなかったと燭が言い出し、私達は寂れた街の、寂れたファミレスに入った。
「アタシサイコロステーキセットご飯大盛り」
一番顔色の優れない里佳子は、声を大にしてメニューを指さす。
私達の中でも一番小食な里佳子が、意外な選択をした事に私は鏡を見なくとも自分で分かるくらい、みっともなく眉毛を下げた。
「はは、何だ笑里その顔。大事な時にへばっちまったからな。胸やけしたとしても、食って身体元気にするっきゃねぇんだよ」
実直豪快な里佳子らしい選択だと思う。嬉しい時も、悲しい時すらもまっすぐな里佳子らしい選択。
「じゃあ、俺はハンバーグアンドステーキセットご飯大盛りにプラスサラダで」
「おお、燭もなかなかヘビーだな。じゃあ俺はこのサーロインステーキ400グラムにプラス明太子ご飯丼」
里佳子に負けじと、燭も、成も大盛りのものを頼む。皆気持ちを上げる為にそれしか思いつかないくらい混乱しているのかもしれない。
私は正直食べる気がしない。食べている暇があったら思い出したい。一刻も早く。
なのに、ルイは無理な量を頼んだ三人に呑気にくすくすと笑い声を上げて、店員の方を向く。
「ボクはビーフステーキセットご飯大盛りにお味噌汁、後食後にミルクレープ」
「ルイ、でも、君……」
「食べるよ。幸福な時にはね」
以上で、と店員を追いやったルイは、やけに幸せそうに頬杖を突きながら笑う。
味覚を取っても、ルイにとっては食べるのは幸福なのだ。誰かと共にするなら尚更に。