【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
ずきずきと、胸の奥の空虚の、柔らかな部分が感情に突き刺される。


嗚呼、そうか。これが『悲しい』という事なのだと、答えは簡単に腹にストンと落ちて来た。


なのに、私の瞼には涙は浮かばない。『悲しい』と思えるのに、他の、目の前の成のように、里佳子のように、燭のように涙を流す事は出来ない。


運ばれて来た食事。私達を怪訝そうに見やる店員も気にせず泣く三人を見ても、瞼は乾いたまま。母を殺し解放され、等価交換に差し出した涙は、それほど取り戻すのに時間が掛かるものなのだろうか。


「食べよう。沢山食べて、皆で食べて、元気になって、ちゃんと取り戻そう。取り戻したら、きっともっと幸せが尊いものになる」


食べても何も感じないルイが、ものの一番に頼んだビーフステーキセットへ手を伸ばした。


それを見て、三人も泣きながら、各々頼んだ大量のものを腹の奥へと流し込む。


「笑里ちゃんも、ほら」


眼鏡を置いて泣きながら微笑んだ燭は、自分が頼んだサラダを私へと差し出す。


「そうだよ。空腹こそ不幸だ!」


便乗した成に明太子ご飯大盛りを差し出され、こんなにも悲しいのに、不覚にも笑みが零れてしまう。


「君達、食べられないからって押し付けようとしてませんか?」


憎まれ口を叩きながらも空腹に入れたお米は、どうしようもなく美味しかった。


思い出す。どんなに悲しくても、人は独りじゃない食事が美味しいという事を。
< 324 / 369 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop