【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
ファミレスで休憩し、私達は昔の自宅跡地から歩いて数分の、海沿いを進み出した。
「この道を通ったのを朧気に覚えています。母を殺した日、おそらく、私が乗り込んだのはパトカーと共に来ていた救急車だったのでしょう」
担架に運ばれず、自ら乗り込んだ救急車。
あの日は酷い雨だった。世界は本当の意味で灰色に染まり、でも、私の家の周りには様々な服を着た野次馬がぼんやりと色味を帯び、その中に、母の友人だった人がいて、私を人殺しだと罵倒しているのが、鮮明に聞こえた。
罵倒されて当たり前だ。彼女は母の友人だった。私の残酷な真実は一ミリも知るよしもなく、仲の良い友人が娘に殺された事が、彼女にとっての残酷な真実なのだから。今までも、そしてこれからも。
「病院で処置を受け、警察で何時間、もしかしたら何日かもしれません。色々話をさせられ、拘留され、解放された帰り、帰りたいと懇願した私を、父は黙ってこの道を通りあの場所へ送りました」
どんなに苦しくても、あの小さなロボットと友人のいた独りじゃなかった私にはいつでも青く美しく微笑んでいた地平線が、その日は、モノクロにしか見えなかった。
今、大切な人を取り戻した私にも、此処はモノクロにしか映らないし、全て揃っても私には此処に色は戻らないのだろう。