【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
「家の前に辿り着いて、私は自分の罪を自覚しました。自分で帰る場所を捨て失せたのだと」


立入禁止の黄色いテープ、出入りする捜査官、遠巻きで騒ぎ立てる報道陣も野次馬も、捨て失せた帰る場所へと私を遠ざける門番だった。


「あの日、あの時から泣き虫だった私は泣かなくなりました。少なからず感じていた感情の全てを置き去りにしました。最後に感じた失念のショックで意識を失い、次に思い出せるのは、成と出会った白い箱です」


パンドラの箱の中の真実は、残酷で、絶望でしかない。その事を、全部を捨て失せたつもりの幼い私が忘れた方が良いと叫び、止めていたのだ。ずっと、ずっと。


それでも開いた。開いた蓋から飛び出したそれらは、理由はどうであれ、私が母を殺した事実は変わらないと告げているかのよう。


周りがどんなに『私は悪くない』と守ってくれても、取り戻した私が叫び返そう。声が枯れる程、何度だって。


「彼女は母親失格だったかもしれない。それでも、私を殺そうとしたから正当防衛だったかもしれない。それでも、事実、私は彼女の命を、この先を、幸福を奪った罪人です。それを背負いながら、それでも足掻いて、私は幸福になります」


過去の私を責めたりはしない。けれど、忘れて罪を償えるなんて、そんなの勘違いだ。


罪を背負え。贖え。それでいて、どんなに足が重くとも幸福までもを捨てるな。逃げるな、と。
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