【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
母は私には関心の無い人だと思っていた。愛していた父に復讐する為に私を奪ったのだとずっと思っていた。


だが、父は仕事しか見ていない。血の通わないロボットを造るのを生き甲斐にした人だ。それを証明するように、小さなロボットを贈ったのだとも。


それでも構わなかった。決められた事しか言わない小さなロボットこそ、私の唯一無二だったから。上辺だけの教師、上辺だけの友人、そんな世界でも、孤独じゃ無かったから。


もうすぐ、君と私は解放されると、狭い世界に生きる幼い私は狂っていた。そうじゃないと、今なら分かるのに。


古びた借家の引戸を開き、彼を抱き締める為だけに濡れたブレザーも気にせず歩を進める幼い私の耳に聞こえたのは、絶望と、私の終わりの始まりの音。


「こんな物!機械だろう!離れても何故私を愛さない!全部お前が悪い!」


リビングで、肉切りバサミを大きく振るう母と、振るわれて揺れる小さなロボットが映った。


彼女を動かすのは、娘への愛だった。親権を奪い手に入れた娘を思い通りに出来ない母親の醜い愛。


「やめっ……!止めてよ!」


「……何故?貴方を育てているのは誰?こんなおもちゃを造った人じゃないでしょう!?」


父への愛なんてこの人には無かった。忙しい父に愛想を尽かしたのは本当だった。だから私を手元に置き、幸せの為に苦労して遅くまで仕事をしたのに、私がそれに気付けなかった。


ボタンのかけ違えのようにズレ始めた全てか、私達を世界の終わりへと引きずり込んで行く。


世界が、絶望へと暗転する。描いた未来を消し去るような、ズブズブの絶望へ。
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