【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
父が到着したのはルイが眠りに就いて三時間も経たない程の時間だった。学校の仕事をいち早く終わらせて着いて来てくれた、美樹も一緒にそこにいる。
落ち着き払ってルイを見始めたのを確認し、私以外の三人は少しだけ表情が和らぎ、安堵すら浮かべているよう。
けれど、私は父に決定打を告げられる気がしていた。予感ではなく確信的に。
だって、親子だから良く分かる。父は泣いた後、瞼ではなく涙袋を赤くする。花粉症で少し泣いただけでそうなる。今日の腫れ方は、泣き腫らしたレベルのものだ。
そんな、私にしか分からない微かな変化を持った父が手を止め、美樹と共に私達の方へと振り返る。
「ボディに異常は無いよ。起動すれば、喋る事も動く事も普段通りに出来るだろう」
その言葉に、里佳子が感嘆の溜め息を零して燭に寄り添い、燭も表情を和らげ、成も柔らかく微笑み私を見た。
けれど、表情を一つも動かさない父と美樹、それから私を見て、各々が歓喜に湧こうとしていた感情を下げて行く。状況の善し悪しが悪しだと言うのを、それで察知したのだろう。
次の言葉がどうにも言えそうになく黙ったままの父を横目で確認し、今度は美樹が重たい口を開き、告げる。
「ただ、お前達皆が気付いていたように、ルイの心臓であり、脳であった中身のパソコンの大事な部分は焼け焦げてしまっている。……残酷な事を言うかもしれないけれど、ルイはもう、このままだと目を覚まさない」
歓喜から一転、断崖絶壁から落とされたような感覚に陥った。