【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
多分、楠本燭は里佳子よりずっと、想いを隠すのが苦手な人。


だって、実行委員で顔を合わせると、気がつけば里佳子をずっと見ているし、その表情はどうしようもなく甘やか。


「そんな顔するくらないなら、ちゃんと里佳子と話をすればいいじゃないですか」


「片岡さんって結構厳しいな。それが出来たら、とっくに話してるって」


それがどうして出来ないのか理解出来ないから私はそういう風に言うのだというのが、多分楠本燭には伝わっていない。勿論、里佳子にもそれは分からない事だろう。


大切な人が傍にいる事を当たり前だと思うから、いつまで経っても言えないのだろう。本当はそれは当たり前なんかじゃ無いのに。


「何だか片岡さん、浮かない顔みたいだし、この話はやめよう」


別に、浮かない事なんて無いのに。どうとも思ってないのに。なのに、どうしてほっとしてしまう自分がいるのだろう。


ああ、記憶さえも捨ててしまえれば、きっと私はそうして誰にも気遣われる必要は無いのだ。
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