【完】R・U・I〜キミに、ひと雫を〜
全く助け舟を出さない私に、里佳子は更に顔を真っ赤にした。


「あ、燭は燭だろうが!何だ嶋山!殴るぞ!」


そして、何か吹っ切れたようにそう叫ぶと、乱暴に座席に座り直す。


「全然分からないし!なーくすも……ってわー!楠本カフェオレぶっ零してる!」


嶋山成の声から、前で起きている事は何となく分かる。楠本燭も今の里佳子の態度に相当驚いたのだ。


もう一度隣に座る里佳子をチラリと見ると……笑って、いる。いつもみたいな明るい笑顔でなく、楠本燭との事を私に告げた日の、柔らかな笑みだった。


修学旅行という特殊なイベントの中で、普段と違う環境が感情を少しだけ違う方へ向かせているのかもしれない。


里佳子も楠本燭も、当人同士互いにマイナスな感情を持っている訳ではない。寧ろ、好意的なものを互いに抱いている。


せっかくそんな感情を互いに持っているのだから、元の形に戻れば良いのだ。


せっかく、感情を持っているのだから。
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