もう君がいない
「ゆったりした町だね。」
「だな。なんか良いな。」
「うん。落ち着く。」
ただ単に、人通りの少ない静かな町だからとか、そんなことではなくて。
なんだか、ゆっくりと時間の流れる、
心を穏やかにしてくれる、
そんな、ふんわりした印象の町だった。
すれ違う人は、みんな挨拶をしてくれる。
一人で歩くお年寄りも、
お母さんと手をつないで歩く小さな子も、
自転車で通り過ぎてくおばさんも、
そんな些細なことが、当たり前にある町。
いつも住んでいる、
せかせかと歩く人々に、ぶつからないように歩く街とは違う。
通りすがりの人はもちろん、目があっても挨拶することなんてない、そんな街とは違う。
まだ、ほんの少し歩いただけなのに、
私はこの町が好きになった。
「俺、ここ好きだな。」
「蓮も?」
「茉菜も?」
「うん、ちょうどそう思ってた。」
私たちは、顔を見合わせて微笑んだ。