もう君がいない


「ゆったりした町だね。」

「だな。なんか良いな。」

「うん。落ち着く。」


ただ単に、人通りの少ない静かな町だからとか、そんなことではなくて。


なんだか、ゆっくりと時間の流れる、

心を穏やかにしてくれる、

そんな、ふんわりした印象の町だった。



すれ違う人は、みんな挨拶をしてくれる。


一人で歩くお年寄りも、

お母さんと手をつないで歩く小さな子も、

自転車で通り過ぎてくおばさんも、


そんな些細なことが、当たり前にある町。



いつも住んでいる、

せかせかと歩く人々に、ぶつからないように歩く街とは違う。


通りすがりの人はもちろん、目があっても挨拶することなんてない、そんな街とは違う。



まだ、ほんの少し歩いただけなのに、


私はこの町が好きになった。




「俺、ここ好きだな。」

「蓮も?」

「茉菜も?」

「うん、ちょうどそう思ってた。」


私たちは、顔を見合わせて微笑んだ。


< 371 / 448 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop