もう君がいない
「なに作るの?」
「秘密!」
「作れんの?」
「この包丁で切られたいの?」
夕方、
始業式が終わって、蓮の家。
さっきまで少しゴロゴロしてたんだけど、そろそろ作り始めようかとキッチンに立った。
まだソファーで寝転んでいる蓮が、
ちょいちょい口を挟んで、私をからかってくる。
「気をつけろよ~、」
「え?」
「だって、茉菜の特技じゃん。」
「なにが?」
「指切って泣くの。」
「切りません!」
ハハハッ、って一人で笑ってる蓮。
確かに、昔は私の得意技だった。
お母さんやおばさんのお手伝いをしようと、一緒にキッチンに立つたび、
包丁で指を切ってしまって、
痛い痛いと、一人で泣きじゃくって、
そんな私に、蓮がいつも、消毒して絆創膏を貼ってくれてたっけ。
「いたっ、」
「は?マジかよ、」
昔を思い出しながら、
物思いにふけって玉ねぎを切っていたら、、
見事に指を切りました。