もう君がいない


「なに作るの?」

「秘密!」

「作れんの?」

「この包丁で切られたいの?」


夕方、


始業式が終わって、蓮の家。

さっきまで少しゴロゴロしてたんだけど、そろそろ作り始めようかとキッチンに立った。


まだソファーで寝転んでいる蓮が、

ちょいちょい口を挟んで、私をからかってくる。



「気をつけろよ~、」

「え?」

「だって、茉菜の特技じゃん。」

「なにが?」

「指切って泣くの。」

「切りません!」


ハハハッ、って一人で笑ってる蓮。



確かに、昔は私の得意技だった。


お母さんやおばさんのお手伝いをしようと、一緒にキッチンに立つたび、

包丁で指を切ってしまって、


痛い痛いと、一人で泣きじゃくって、

そんな私に、蓮がいつも、消毒して絆創膏を貼ってくれてたっけ。



「いたっ、」

「は?マジかよ、」


昔を思い出しながら、

物思いにふけって玉ねぎを切っていたら、、


見事に指を切りました。


< 383 / 448 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop