もう君がいない
「なぁ、茉菜?」
「ん?」
蓮の呼びかけに、私は車いすを止め、蓮の横にしゃがみこむ。
こうして、蓮と目線を合わせて話すのが好き。
「桜が咲いたらさ、花見がしたい。」
「お花見?」
「ん。アメリカにいたときは、近くに桜がなかったし。去年もできてないし。」
去年、蓮が帰ってきてすぐの頃、
もう満開の時期は過ぎちゃってたし、
お花見しよう!とか、そんな雰囲気でもなかったしね。
「久しぶりにやりたいな。」
蓮がアメリカに行く前は、毎年の恒例行事のようにやってたもんね。
お父さんたちが場所取りして、
お母さんたちがお弁当作ってくれて、
懐かしいな、、。
「やろう!お花見!」
「ん。」
「一日だけでも外出許可もらって、昔みたいに、満開の桜見に行こう!」
「あぁ、頑張る。」
そう言って交わした、約束。
そんなにわがままな願いだった?
桜が見たい、
お花見がしたい、
たった、それだけなのに、、
そんな、小さな願いさえ、叶わなかった。