もう君がいない
「忘れ物はないわよね?」
「ばっちりよ〜!」
「じゃああなた、出発!」
張りきったお母さんの掛け声で、車は出発した。
前の座席では、遠足に行く子どものようにはしゃぐ、お母さんとおばさん。
その前には、ハンドルを握るお父さんと、隣でナビをするおじさん。
一番後ろに乗る私と蓮が、一番落ち着いていた。
「大人のテンション高すぎだろ。」
そう言って、隣でクスクス笑う蓮。
私はそんな蓮に、朝からドキドキしっぱなしだった。
私が一番最後に家から出ると、みんなで荷物を車に積んでいる最中だった。
貸して、と蓮が私の手から荷物を取り、車に運んでくれた。
その優しさにもドキっとしたし、帰ってきてから初めて見る制服以外の蓮に、私の胸は高鳴った。
黒のVネックのTシャツに、長い足にフィットした少しクラッシュの入ったスキニー。
ありきたりなそんな服も、そのシンプルさが蓮にはぴったりだと思った。