相棒の世界
しばらくすると、また足音が近づいてきた。
ーーーあの女性だった。
「っ…!」
ふと、頬に冷たいものが当たる。
それは水で濡らされた布切れだった。
「頬に…傷があるので…」
女性はそれ以降口を開くことなく、黙って俺の頬を拭っていった。
つい、俺も黙ってしまう。
「………」
「………」
優しく拭うところに、今までにない女性らしさを感じた。
ニカも将来、こうなるのだろうか…。
いやーーー
「他に痛いところはありませんか?」
ーーーなるわけがないな。
「…胸が少々痛い」
拭うどころか布切れを投げつけてくるようなやつだ。
本当に胸が痛くなってくる。
「あっ…それは大変…!」
女性はたちまちオドオドとするとーーー
「っ!!」
俺の胸にーーー手を当ててきた。
「っ…そ、そういうことじゃない!」
「えっ?」
俺は女性の手を掴むと、すぐさま胸から離した。
「…ちょっとしたジョークだ」
俺は鷹目か?
鷹目みたいなことを言ってしまった自分が、少しだけ恥ずかしくなってきた。