相棒の世界

「ーーーあ」



ふと俺は彼女の方に顔を向けた。




「お前、名を聞いてなかったな。
名前はちゃんとあるのか？」



「あ、はい……
ミラ、と申します」



「ミラ？」



「はい。主人につけられた名前です。ずっと名前がなかったので…」



彼女は自信なさげの声で言った。





「……っ」



ふと、奴隷だった頃のことをまた思い出した。



名前ではなく、番号で呼ばれた毎日。



自分を自分で商品と思うしかなくなるほど、自分の価値がわからなくなってしまう日々ーーー。




彼女の気持ちが痛いほどに理解できた。





理解できるからこそ、俺はこの言葉が自然と喉の奥から出てきた。






「ーーー立派な名前だな」







「え…？」




少々裏返った細い声に、俺はふっと笑みが浮かんでしまった。




「そのままの意味だ。
お前の名前は立派だ」





ーーーだから、もっと自分と自分の名前を大事にしろ。