相棒の世界





立ち去る中、背中で話を聞いていたニカは驚いている様子だった。



ニカの心臓の鼓動が背中越しに伝わってきたのだ。





しかしーーー



「………」



ニカは俺に一切声をかけなかった。



きっと俺のことを気遣っていたのだろう。





「どうして黙ってるんだ。
いつもはうるさいほどに喋るのに」



「…黙ってなどいない」




俺が話しかけると、ニカは小さくそう言った。








「ーーーなぜ男を殺さなかったんだ。
酷い奴じゃないか。
……本当の父親だからか?」




やっとニカはさっきの出来事について訊いてきた。



慎重な切り出し方だ。




「頭の中に二つ思い浮かんだことがあったんだ」



「頭の中?」




ニカは興味深そうに、俺の肩から身を乗り出してきた。




「ああ、そうだ。
一つはガイドンの言葉だ。
憎しみを持って人を殺してはいけない、昨日そう言われたもんでな…

俺は暗殺者たちを切り刻んでいる時、正直憎しみで溢れていたよ。
だからか、俺は我を失って暴走してしまったんだ。

ーーーきっとあの時憎しみを持って父を殺してしまっていたら、今の俺は俺じゃなくなっていたかもしれない」




ニカは何度か首を頷かせた。






< 212 / 506 >

この作品をシェア

pagetop