相棒の世界
立ち去る中、背中で話を聞いていたニカは驚いている様子だった。
ニカの心臓の鼓動が背中越しに伝わってきたのだ。
しかしーーー
「………」
ニカは俺に一切声をかけなかった。
きっと俺のことを気遣っていたのだろう。
「どうして黙ってるんだ。
いつもはうるさいほどに喋るのに」
「…黙ってなどいない」
俺が話しかけると、ニカは小さくそう言った。
「ーーーなぜ男を殺さなかったんだ。
酷い奴じゃないか。
……本当の父親だからか?」
やっとニカはさっきの出来事について訊いてきた。
慎重な切り出し方だ。
「頭の中に二つ思い浮かんだことがあったんだ」
「頭の中?」
ニカは興味深そうに、俺の肩から身を乗り出してきた。
「ああ、そうだ。
一つはガイドンの言葉だ。
憎しみを持って人を殺してはいけない、昨日そう言われたもんでな…
俺は暗殺者たちを切り刻んでいる時、正直憎しみで溢れていたよ。
だからか、俺は我を失って暴走してしまったんだ。
ーーーきっとあの時憎しみを持って父を殺してしまっていたら、今の俺は俺じゃなくなっていたかもしれない」
ニカは何度か首を頷かせた。