相棒の世界
しばらくすると、ようやく女性の姿が目に入ってきた。
時々こちらに振り返りながらも全力で逃げて行く。
俺はその場から彼女の真後ろへと跳んだ。
もう逃がさないからな。
「っ!!」
俺が跳んできたことに気づくと、彼女はその場に立ち止まって懐から短剣を取り出した。
「なっ!」
俺は慌てて片方の手で剣を抜くとーーー
ーーーカキン!
向けられた短剣にそれを当てた。
「っ!!」
女性は慌てた表情になると、短剣を放り投げてその場からまた走り出そうとした。
俺はすかさず手を伸ばして腕を掴む。
「っ…はなせ!」
「はなすものか」
女性が身を振る振動で、カゴからリンゴが落ちてゆく。
どうにかして逃げようとする彼女の腕を、俺はひたすら掴んでいた。
「ーーーいいから話を聞け!
お前はあのシルクハットを知ってるんだろ!?」
「し、知らない!」
「嘘をつくな!」
必死になりながらも、俺はこの口調が誰に似ているものか分かったような気がした。
これは絶対にーーー
ニカの口調だ。
この女性は確実にニカの母親だ。