相棒の世界
「っ…兎…さん?」
「っ!!」
途端にミラの声が聞こえ、自分の顔を離した。
何をやってたんだ、俺は……
「な、なんでもないからな…!言っとくが!」
「…え?」
ミラは何が起こったのか分かっていないようだった。
フゥ、と安堵のため息が出る。
「…兎さん。私、兎さんに出会うまでずっと独りぼっちでした」
「っ…」
ミラの言葉に少しだけ顔を振り向かせる。
「私、実は生まれた時から奴隷として扱われていたんです。前はなんとなくぼやかしてしまいましたがこれが本当の真実です。
いろんな家をたらい回しにされ、捨てられては拾われ、また捨てられては拾われ…本当に苦しかったです。
私、一度死のうとしたことがあります。自分の力だけがこの世界に必要とされているのであって、私は必要とされていない。そう感じてこの世を去ろうとしたんです。
ですがその時、ある一人の女性に出会いました。運搬車の中、私の隣に座っていた女性です。彼女は息子と生き別れたと言ってました。息子は兎さんと同じ盲目だったそうですが、女性はその息子のことを心底愛していたし、今も愛していると言ってました。彼女は私の肩を持って言いました。死んではいけないって。この世界は残酷だけど、必ず『愛』が存在するって。こんな狭い箱の中で息子を思い続ける私のようにって。その女性は病気を患って亡くなってしまいました。だけど、息子さんへの気持ちはずっと生きているのだと思います。
兎さんが私を助けてくれた時、それを思い出しました。こんなにも優しい人が、こんなにも温かい人がこの世にはいるんだ、そう思いました。私は兎さんをものすごく愛しています。あなたのような人は、きっと今目の前にいる方以外にいないでしょう」