相棒の世界
ーーーその後、俺たちは奴隷たちの手足の枷を壊すと森の中に逃がした。
奴隷たちの行動はそれぞれだった。
希望を求めて森に逃げてゆく者もいれば、運搬車の中でうずくまり続ける者もいた。
「兎…」
「ほっとけ」
ニカは逃げない者たちを気にかけていたようだったが、俺はほっとくように指示した。
希望を持つも持たないもその人間の心次第。
俺たちが口出しする権利などないからだーーー。
「…なぜ逃げないのだ。
せっかく自由の身になれたというのに」
運搬車の前に佇む中、俺の隣でニカがぽつりと呟いた。
「………」
俺はニカの質問に黙り込むことしかできなかった。
その理由を、自分でも嫌になるほど知っていたからだーーー
『助けて…』
『……っ!』
『助けて…下さ…い……っ』
子供の頃の記憶が蘇ってくる。
運搬車の中、散々耳に響いた奴隷たちの声ーーー
俺はニカが被るシルクハットに、ポンと手を乗せた。
「逃げないんじゃない。
ーーー逃げられないんだ」
逃げたくともーーー
逃げられないんだーーー