【詩的小説短編集】=想い=
陽炎
9月も半ばを過ぎたというのに、僕の足元には陽炎が揺らめいている。

公園のアスファルトに近い場所を選び、腰を下ろすと、手を伸ばしてみた。

ユラユラと立ち上る、薄い光にあの日の君を見る。


掴んでも、掴めない……

まるで蜃気楼……


『私、あなたとは一緒に生きられない……』

リフレインする言葉。

自分勝手で、君を泣かせてばかりだった。


残暑の陽射しは、容赦なく肌を刺している。

真夏の暑さより、じんわりと、まるで真綿で絞めていくように……

これは、僕の罰。


これは、僕の罪。


ぎゅっと瞼を閉じたその時。

秋の香りと、懐かしい香りが鼻をついた。


「久しぶり♪」

不意に背中を取られ、優しい重みが、身体を包む。


「?!」


「………和砂(カズサ)」

俯く僕の横顔に、ピタッと張り付く笑顔。


「修吾(シュウゴ)変わってないね」


別れたはずの……

僕を捨てたはずの女。

和砂が目の前にいる。


「あれから、3年?」

「あぁ…」


その質問には頷くしか言葉が出ない。


目の前の彼女は蜃気楼でみたのと違い、とてもおとなびて見える。


「和砂、今、何してる……」

やっとの思いで聞くと、散歩だよと、軽く指を向けた。


その先には一人の男とベビーカー。


「元気なら、よかった♪
またね」


和砂は少し振り返って、走って行ってしまった。


まるで陽炎と蜃気楼みたく夢のように……


僕はまた、掴めない陽炎と蜃気楼を探し始める。


彼女のように僕の背中を包んでくれる相手が現れるように……


そして、今度は消えないようにと。


僕は終わりを探して、また歩きだす。



=fin=                                                 
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