【詩的小説短編集】=想い=
縁側
チーン♪
鎮鈴の音が静かに響く。
私は、もう答えてはくれない母の位牌へと手を合わせた。
「お義姉さん、お茶が入りました。」
弟の嫁が温かいお茶を出してくれる。
入れてもらったお茶を飲みながらふと庭先を見る。
母が好きだった縁側が見えた。
「母さん……」
「お義母さん、縁側が好きでしたよね。特にコスモスの花は大好きでしたね」
嫁の言葉にあの日を思い出す。
…………
「秋桜……綺麗だね。風に身を任せて、細い枝を上手に動かしながら、淡い花びらを懸命に守ってる」
「………うん」
頷く私。
「お前も、明日からは好きな男の元へ嫁ぐんだ。秋桜のように強く可憐に生きるんだよ」
「……う……ん」
段々と目頭が熱くなる。
「どんな苦労をしたって、アタシ位になればみんな笑い話になっちまうもんさ」
涙ぐむ私の肩を叩きながら、母はコスモスのように微笑んだ。
あれから30年。
母の笑顔は写真の中だけだけど、私にくれたあの言葉は今でも胸の中で咲いている。
そして明日、私の娘が嫁ぐ日のだ。
私は母(アナタ)のように娘を送り出してあげられるのだろうか……
小春日和の柔らかな風が母の掌のように私の頭を撫でていく。
「お義姉さん。明日から寂しくなりますね」
静かに見守っていてくれた嫁が声をかける。
「そうだね。あの娘も嫁いでいく年齢になったんだもんね。私も、もっとしっかりしないといけないかしらね……」
もう一度、仏壇に手を合わせてから、私は重い腰を上げた。
『私は貴女が亡くなった今でも貴女の娘です。そして、嫁ぐ私の娘もずっと娘です。私は貴女にそれを教えてもらいました』
心でお辞儀をして、気持ちを新たにした。
=fin=