【詩的小説短編集】=想い=
胸の奥

あなたを想ってする恋は苦しくて哀しくて辛い事ばかりあるけれど、この気持ちを消す事は到底不可能なことだった。


誰もいない夕刻。

私は町外れの土手にある高架下にいた。

自然とあふれ出る涙を袖口で拭っても、この気持ちは届かなくて……

思いが儚くて声さえ出すことができなかった。


時折頭の上を通り過ぎる規則正しい車輪のリズムに心をかき乱されて、危くて自分を投げ出してしまう衝動にかられてしまう。


音が止まったその空間に不意に『愛してます』と奥底にしまわれなかった言葉がこぼれでた。


その瞬間……


ポケットにネジこんだ携帯がブルブルと震え、着信を知らせるメロディーが流れてきた。


「………」


手の中で、もがき続ける小さな箱がとぎれるまでただ見つめている。


そして、発信者の確認も無視して、もう動かないそのモノを持ったままただ茫然とたたずんだ。


あの男性(ヒト)は明日、新たなる戸籍を作る。


私の気持ちに気がついているはずなのにそれに目を背ける。


あの晩に感じた熱い視線は嘘だったのだろうか……


「君を愛している」


そう言った唇は偽りだったのか。


目まぐるしく私の肌を流れたあの指先は幻だったのか。


出会った時から私は彼だけを見つめていた。


それを上手く利用されただけなのか……



いたたまれない思いでつくった拳を固いコンクリートに叩き付けた。


何度も何度も叩き付けた。


何もかもなくしてしまいたい。


記憶の奥に潜む彼の笑顔と甘い吐息。


そして身体の奥へと入り込んだ彼の一部……


「これからもこの関係でいたい」


そう告白した彼をつっぱねたのは私。


愛するなら私だけでいてほしい。私だけを見つめてほしい。


くだらないプライドが大切な彼を遠ざけた。


その報いが拳の痛さ………


今も、そしてこの先も………


=fin=









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