【詩的小説短編集】=想い=
涙
「どうしたの?」
下を向く僕の耳に優しい声が響いた。
聞き覚えのある声に涙を見られたくなかったから、僕はうつむくだけだった。
「背中が寂しそうだよ。隣りに座るね」
そう言いながら、うつむく僕の目の前にハンカチが差し出された。
それはクマの絵が付いてて、綺麗にたたまれていた。
「さっき、カグが家を飛び出して行くのが見えてね。ちょうど姉さんに用があったからカグん家に向う途中だったんだ」
「?!」
その話しにびっくりして、僕は思わず顔をあげた。
そこには心配そうに僕を見る、母親の妹の華香姉さんがいたんだ。
「あらあら、随分と泣いてたのね。目の回りが真っ赤だよ」
華香姉さんは僕のホッペに左手で触ると涙を親指で拭った。
「大丈夫。お母さん、ちょっと怪我をしただけだから」
その言葉に少し安心をしたのか、また涙があふれてきた。
「男の子なんだから泣かないのよ。もう4年生でしょ?あの花瓶、お水とお花が入ってたから重かったでしょ?すごい力持ちになったんだね」
笑顔で話す華香姉さんにとぎれとぎれ鼻をすすり涙を堪えながら答えた。
「夢中…だっ……たから……わか……らない」
「そっか。解んなかったか。」
頭に手を置き続けた。
「お母さんね、カグが大好きなんだよ。だから怒るんだよ。小学生の今、決められたことを出来ないと大人になってからもいい加減な人間になってしまうものね。華久羅にはそうゆう人間になってほしくないから宿題をしなさいって言うんだよ」
その言葉を聞き、僕は言い返した。
「友達との約束も大切だもん……」
「そうだね。それもすごく大切な事だよね」
「うん」
「でもね、カグ?お友達と野球したら、疲れちゃって眠くなっちゃうんじゃない?そしたら、学校の決まり事は出来なくなっちゃうよね?」
「…う……ん」
僕の頭は高速回転だったけど言葉はカメだった。
「お母さんの気持ちも少しはわかったかな?帰ろっか?」
僕は納得したような違うような気持ちで華香姉さんに抱えられるように歩いた。
一緒に謝るからと言う姉さんの言葉に答えすら出せないまま、家についてしまったのだ。
『どうしよう。大丈夫かな』
不安まみれの気持ちのままだった……