【詩的小説短編集】=想い=


「ただいまぁ」

華香姉さんが玄関を開け、そう声を掛ける。


姉さんの後ろから僕はそっと中に入る。


「ほら!自分の家でしょ?しっかりしなさいな」


そう言われてうつむいていた顔をそっと上げると、花瓶を投げたその時を思い出した。

フラッシュバックのような映像が流れる。

母さんが痛い思いをする!そんな感情で一瞬だけ怖くなって目を閉じた。
聞こえるはずのない花瓶が割れた音が響く。


「ハナカ?」


奥から母さんの声が聞こえた。

「姉さん、カグを連れて帰ったわよ」

「?!」

その声に驚いたかのように母さんが玄関に飛び出してきた。

「か、華久羅!」
僕を見た母さんは少し震えていた。
「だ、大丈夫だった?」

以外な言葉に僕は顔を上げた。

「母さん、反省したわ。華久羅があんな風に自分を出すなんて考えてもいなかったから」

「母さん……」

言葉がツマる。

「カグも大きくなったのよね」

両手をお腹の前で組み、下を向きながら話す母さんを見た。

「うるさく言ってごめんなさい。4年生だから、勉強が難しいくなると思ってつい……」

泣きそうな声に僕も涙がでそうになる。

そんな僕に気がついてか、華香姉さんがそっと肩に手を置いてくれた。
「僕も…僕こそごめんなさい。コソコソと遊びに行こうとして」

最後は涙声だった。でも、言い終わらないうちに僕の身体に何かがのしかかってきた。

それは母さんが僕をフワッと抱き締めてくれた感覚だった。

「痛い思いさせてごめんなさい」


謝れた思いと、母親の怪我の軽さに気が緩んだのか僕はワンワンと声を出して泣いた。


理解されていない。その気持ちは完全に消えた訳ではないけれど、今ある温さは信じられる。


母さんがいて良かった。

華香姉さんがいて良かった。


そんなことを涙から思うことができた。



=fin=



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