【詩的小説短編集】=想い=

夏が終わり、蝉達が最期の力を絞り出す秋のはじめ、僕は広い本堂にいた。


目の前には親戚が頭を垂れながら座っている。

その横に僕の祖父母がやはり下を向いて拳を握り締めている。隣りに座る父母も同じだ。


窓から吹き込む風は軟らかく、まだ半袖の腕に少しだけ心地よく馴染む。


お昼を少しだけ回った晴天の午後、この夏に急変し亡くなった伯母のための法要が行われている。


蝉時雨の中にお坊さんの声が静かに被る。


難しいと思った。

言葉の意味も解らず、まるで外国語でも聞いている気分になる。


色々な場所で顔を合わせていたけど僕には遠い伯母だけに、周りの哀しみなどとうてい理解できないものだった。


早くこの時間が終わらないか……


ただその言葉だけが頭を支配した。

残暑厳しい気温からか額から冷たいものが頬を伝わる。


長い読経が区切りを迎え、住職の合図で位牌の前に立ち焼香をする。


正座を苦手とする僕には立ち上がるのすら拷問に感じた。


ゆっくりと立ち上がり歩く。
足の指の感覚が麻痺しているのがわかる。

少しよろめくけどなんとか焼香を終えることができた。


住職と親族に頭を下げて、自分の席に戻る。


読経が止まり、式も滞りなく終わりを迎えようとしていた。


お経とは違う音で住職が話し始める。


精神的に弱い僕には耳の痛い話だった。


その後お墓へと行き、手を合わせ線香を立てる。


ここに眠るのは僕の祖先なのだ。


定められた法則により僕の命はここに存在する証の場所。


この石の下に眠る過去の命に感謝とも怒りとも言える複雑な感情を隠しながら静かに手を合わせる。


僕はこの祖先から受け取った命をどこまで大切にできるのだろうか……


ジリジリと照り付ける日差しに、時折秋を感じる風が汗ばむシャツを撫でて行く。


答えなど出せないまま僕は流れに身を任せ、親戚に肩を抱かれながらその場を後にした………



=fin=




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