魔法使いの一日
二.さらば、平和な日々
此処は、世界の何処かにある王族の住む城の城内。いや、正確には世界の何処かではなく、次元の何処かと言う表現が正しいだろう。
その城内の廊下を、一人の老人が血相を変えて走っていた。老人は長い廊下の一番奥にある一際大きい扉に手を掻け、扉を軽く押す。すると扉は外見とは裏腹にいとも簡単に開いた。
扉が開ききる前に、老人は扉の向こうにいる人物の元へと走っていった。それ程までに急いでいるのだろう。
「王よ!!」
その老人は、部屋の奥にいる玉座に座り、偉そうに踏ん反り返っている男の前に行くと跪いた。
王と呼ばれたその男は、とてもめんどくさそうに顔をしかめた。
「騒々しいぞドマーニ。一体何の騒ぎだ」
ドマーニと呼ばれたその老人は、申し訳なさそうに頭を下げる。
「申し訳ございません。それより王よ、大変でございます! 奴が……――の奴が、生きているとの情報でございます!」
ドマーニがある人物の名を口にした瞬間、王は凄まじい勢いで玉座から立ち上がった。
「何だと!? 奴は死んだのではないのか!?」
「騎士たちもそう思っていたようですが奴はしぶといことに……。ですが、魔力はすべて奪い取ってありますから、何もせずとも我々の害になることは無いかと」
ドマーニが話し終わると、王はドマーニの横を通り過ぎ何処かに向かおうとしていた。
「王よ、どちらへ?」
「奴を……殺しにだ」
王がそう告げると、ドマーニは酷く驚いた。
「そんな! 王が直接向かうようなことではありません! それに、奴はもう只の人間同然。此処にはもう戻ってはこれませんし、国の脅威にもなりません! ですから……」
「ドマーニよ。俺は、奴が国の脅威になるのが恐ろしくて殺しに行くのではない。この世に存しているのが許せんから殺しに行くのだ」
王は、掌に爪が食い込むくらいの力で手を握り締めた。
「奴はこの世に生きていていい存在ではないのだ。それに奴がいくら俺の近くに存在せずとも、生きていると思っただけで虫酸が走る!! だから、俺の手で葬ってくるのだ」
王はそれだけを告げると、部屋から出ていった。
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