魔法使いの一日
ずっと黙りこくっていた少年は、何かを決意したような、真剣な表情になった。
「……俺の名前は――」
「名前は?」
この場に暫くの静寂が流れた。
「俺の名前は―――無い」
「…………はい?」
あまりに予想外な言葉に、つい間抜けな声を出してしまった。だって、名前が無いって……えぇ?
私が混乱しているのに気にも止めず、少年は話し続ける。
「正確には、無いのではなく、名前を捨てたんだけどな」
ガッ!
少年が喋り終わった瞬間、私は立ち上がり、片足を机にダンッと乗せ少年の胸ぐらを掴み上げた。
「なっ、亜梨珠……?」
少年は、私がいきなり胸ぐらを掴み上げたことに驚いたようだ。
「――――んな……」
「は? 今なんて」
私は、少年をキッと睨み付け、少年の言葉を遮って言葉を放った。
「ふざけんな!! 自分の名前を捨てたって何よ!! あんた親から貰った名前を何だと思ってんの!!?」
少年は、私がこんな言葉を発することが意外だったのか、ポカンとした表情をする。
私は取り乱した息を落ち着かせ、少年の胸ぐらを静かに離し、ゆっくりと座った。
.