魔法使いの一日
本日二度目の強烈なる悪寒が背筋を駆け巡ったと同時に、ふつふつと怒りが湧き上がっていくのが分かった。


あの糞爺ぃ…何が天秤にかけるつもりか、だ。そんな事、笑いながらよくもまあいけしゃあしゃあと……っ。


「俺はヴァルボーネの命令を無視しシュリルを逃がそうとした。当然だろ、禁忌を起こせば近い将来必ず国は掟の力により国は滅びる。それに、お前の妹を見殺しにもできないからな……なのにシュリルは、首を縦に振らなかった」












『―――さん、あたしはここから逃げるような事はできないんです。ここでは沢山の人に助けられました。勿論、―――さんにも、兄にもです。それに、そんな役があたしでよければ、あたしは喜んでその役を果たしきります』

『何、言ってんだよ…そんな事言われて、はいそうですか、なんて言える訳ないだろ!!? 何考えてんだ!!』

『そうですね、普通ならこんな事言わないんでしょうね。きっと、死期が近いからでしょうね』

『!?』

『そんな驚かなくてもいいじゃないですか。自分の体の事ですよ、自分が一番よく分かっています。勿論、―――さん達がその事を知っている事も知っていましたよ。―――さん、顔に出やすいですから。でも、兄には話してないみたいですね、よかった。フフッ』

『うっ…って、笑ってる場合じゃないだろ!!』

『フフッ、すみません』


自分の死期が近づいてるって言うのに、シュリルの顔は心底穏やかだった。それは‘死’から来る諦めとか、そんなものの類ではなく、‘死’そのものを受け入れているような表情だった。







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